2018年6月30日土曜日

テンパリングの話

 料理の世界でテンパリングというと、チョコレートのテンパリングの方が圧倒的に有名だと思いますが、カレーの世界でもちょっと意味合いは違いますが、やはり重要な工程として知られています。

 さて、このカレーの世界でのテンパリング。ご存知の方も多いでしょうけど、ざっくり言えばホールスパイスをオイルで加熱して香りを引き出す工程として捉えられています。

 そして、話は変わりますが、ペペロンチーノの作り方で、最初にオイルにニンニクの香りと唐辛子の辛味を移すというのが一般的な定説ですね。では、本当にニンニクの香りがオイルに移っているのでしょうか?

 まあ、実験してもらえれば分かるかと思いますが、結論を言えば、大して香りは移りません。ええ、少しは移ります。でも、思ったよりも移りません。ああ、なんて主観的(笑)加熱せずオイルに漬けた方がアリシンが残るので、オイルからニンニクの香りは強いです。でも、加熱したら、ニンニク自体から香りが発生しますが、アリシンはアホエンに変化して、どんどん揮発していきますので、オイルにはそんなに香りは移りません。

 試しに、弱火でオイルに刻んだニンニクを入れ、じっくりと加熱してみて下さい。ニンニクがキツネ色になるとともに、香りが立ってきますよね?で、そこからニンニクを取り出して、オイルだけを一旦冷やします。そして、空気中に漂っている香気成分が完全になくなったら、冷やしたオイルからどの程度ニンニクが香るかを官能試験してみてください。思った以上に香りがしないですよね?ほのかに香る程度ですよね?

 実はこれ、スパイスも一緒なんです。スパイスの香りはオイルにそんなに移りません。例えばクミン。クミンのホールをテンパリングしてみてください。はい、空気中に香りが漂ってきましたね。では、クミンを取り出してオイルを冷やし、空気がクリアになったら、オイルの香りをチェックしてください。

 どうでしょう?思った以上に香りはしないんじゃないでしょうか?で、クミンの場合、華やかな香気成分は加熱で飛んでしまいます。そして、メイラード反応によるメイラード香が強く残ります。このメイラード香が食欲を非常にそそる香りなんですが、クミン自体の香りかというと、加熱されて華やかさや青臭さがなくなり、メイラード香をまとったクミンの香りとでもいいましょうか…

 同じく、フェンネルやスターアニスなんかも、過熱によって華やかで青臭い刺激臭は減り、メイラード香を纏った香りに大きく変化します。クローブなんかだと、クローブの感じは残ったまま、少し和らいだ香りになりますけどね。

 じゃあ、スパイスの香りは消えるのかというと、そうではありません。ホールを噛んだらメイラード香の影に隠れていたスパイスの香りが強くします。

 ペペロンチーノのニンニクの香りの大部分は、刻んだニンニクから出ています。オイルにはそんなに移りません。同様に、スパイスもスパイス自体から香りは出ていますが、オイルには思ったほど香りは移らないんです。

 でも、シナモンは香りが強く移るじゃないか?と気づいた方もいらっしゃると思います。これは仮説なんですが、シナモンってうっすらと微粉を纏っていますよね。おそらくあの微粉がオイルに拡散されただけで、香気成分自体がオイルに移った訳ではないんだと思います。まあ、もっと検証が必要ですけどね。

 さて、オイルに香りは大して移らないのであれば、テンパリングは不要なのか?いえ、そうではありません。ペペロンチーノのニンニク同様、香りを発生させるには必要でしょう。オイルに香りが大して移らなくても、一緒に炒めたり煮たりする間に、玉ねぎやスープに香りが少しづつ移ります。その少しの積み重ねが重要なんだと思います。それに、ホールをガリっとしてもらうこともスパイス感を感じてもらうための要素ですしね。

 ただ、もっと香りをロスせず、立ち香ではなく、後香を引き出すことを目的として、調理工程を見直すことは可能でしょう。ホールではなく、パウダーを適切なタイミングで効果的に使えれば、後香を鮮烈に立てることもできるかも知れません。

 まあ、これだけグダグダ書いてますが、スパイスの鮮度の方が重要だよと言われれば、それで話は終わります。それぐらい、鮮度って重要なんですよね。現地購入か、もしくは商品の回転の速いスパイス屋さんで購入したい所です。

 あと、大事なことをもうひとつ。ペペロンチーノの炒め油にしても、アヒージョにしても、EXVオリーブオイルは使いませんよね。香りのしないピュアオリーブを使いますよね。EXVは後がけにしか使いませんよね。スパイスに使う油も同様です。ギーやマスタードオイルを使うのは、その個性を生かすためであり、その個性が邪魔な場合の方も多いので、通常は香りのしないオイルを使いたいですね。サラダオイルやピュアオリーブなどなど。まあ、個人的に最高なのは太白ごま油だと思ってます。香りもしないし、熱にも強く、抗酸化物質が多いので酸化にも耐性があります。近年では、お菓子作りで太白ごま油を使われるパティシエさんも多いですよね。お菓子の香りを邪魔せず、使いやすいんでしょうね。

 では、長くなりすぎたので今回はこの辺で。香味油の話など、続きはまた。











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