2018年10月2日火曜日

カレーと出汁の考察再び

 一般的にインドではカレーにわざわざ出汁を取るという工程はあまり見かけません。もちろん、地方や料理によってはその限りではないのですが。

 お客様からよく、スパイスからカレーをつくったけど何か味が足りないという話を聞きます。そして、これも一般論ですが、味が足りない時は塩を入れましょうと、インド料理に携わる方々がアドバイスされています。

 味が足りないというのは日本人の場合、旨味が足りないということが大半なのですが、確かに、塩でエッジを効かせると旨味を補完することができます。インド料理に限らず、イタリアンなんかもそんな所がありますね。また、和食なんかでは逆に塩分を抑えるために、旨味を効かせるという事も行われます。

 さて、ここで考察。シンプルなチキンカレーをつくるとします。味の構成は玉ねぎ、にんにく、生姜の香味野菜のグルタミン酸、トマトを入れるなら同じくグルタミン酸に加熱で増加するグアニル酸、そして、鶏から出るイノシン酸とグルタミン酸、ヨーグルトを使うなら少しのグルタミン酸に酸味、そして塩と風味を左右するスパイス。実にシンプルです。

 こうして作るチキンカレーで味が足りないとなると、どれかの成分を増加させるか、他に素材を加えるかになります。そして、家庭ではあれやこれや素材を加えて複雑さを増やす方向に行くことが多いと思いますが、料理人は自分のつくる料理の正体を出来るだけシンプルにしたいものですから、どれかの成分を増加させるために、既存の素材を多めにするか、少しの追加素材を加えて完成させることを考えます。

 そして、既存の素材で増加させる第一候補が塩となるのですね。これは当然の第一候補です。あと、当然ですが、スパイスや素材の風味も塩と同じくらい重要ですね。そして次が旨味の増強。香味野菜は増やすとバランスを損ないます。なので、増強する候補としては鶏の旨味、そしてトマトを使うならトマトの旨味の2つになります。トマトを使わないなら鶏の旨味一択ですね。

 では、鶏の旨味を増強させることについて考えてみましょう。そもそも、インド式だと出汁を取らないというのは、具材として煮込んでいる鶏から十分に出汁が出ているという考えから来ていると思います。しかし、鶏といっても旨味が十分にある親鳥や地鶏と生まれたばかりのブロイラーでは素材に含まれる旨味が圧倒的に違います。具材の質を考慮せずに、単にインドでは出汁を取らないと方法論だけに固執するのもいけません。親鳥なら出汁をとらなくてもいいかと思いますが、ブロイラーだと、スープに出る旨味成分の量も少ないし、肉自体にも旨味が少ないこともあります。

 まあ、店で出すのであれば、その旨味のバラツキを塩で補完して味をブレさすのもひとつの選択です。ラーメン屋ではなくインド式カレーの場合、このブレをあえて修正しないことで飽きさせないというのは実は重要なポイントかも知れません。また、鶏自体に旨味が少ないのであれば、ガラから取った出汁などを使って鶏の旨味を補完するのも当然の一手です。

 次に具材となる鶏について考えてみます。よく、ホロホロに柔らかく煮込まれた鶏肉という表現がありますが、煮込めば煮込むほど、鶏の旨味は外に流出し、ホロホロになっているのであれば、低温調理でもない限り、肉自体に旨味がほぼ残っていません。が、スパイシーなグレイビーの風味と塩味のお陰で旨味が残っていない具材の肉も、美味しいと思ってしまうものなんですね。

 もちろん、もっと具材の味わいを追求するのも一つです。チキンカレーの鶏をプリップリでジューシーな具材として仕上げるのであれば、一緒に煮込むことは最善策ではありません。別でグリルするなり、低温調理するなり色々あるかと思います。が、具材の味わいを優先して別調理するとなると、肝心のカレースープに鶏が入っていないのですから、鶏の旨味は加味されません。なので、具材の味わいも考慮してチキンカレーをつくるとなると、必然的にガラなどでカレースープに鶏の旨味を足してあげなくてはなりません。まあ、もも肉の代わりにガラをマリネして普通にチキンカレーをつくり、後でガラを取り出して、別調理の鶏を足せば、出汁を取るという工程はないので、インド式に拘る方も満足するかも知れませんね。

 結局何が言いたいかと言うと、出汁を取るとか取らないという方法論は、素材や狙った完成図によって左右されるものなので、方法論に拘り過ぎては本末転倒になることもあるという事ですね。まあ、インド式に忠実につくったという脳内補完で美味しく感じることも多々ありますけどね。

美味しいスープは2極化する?

最近、ラーメン屋さんに行って感じることがあるんです。とても美味しいのに、人によっては物足りないと言う人もいるんだなということに。これ、欧風カレーしか知らない人が、南インドのサラっとしたカレーを食べて物足りない、つまり、期待していたコクや旨味がないと感じるのと同じ話なんですね。 ...