2019年12月25日水曜日

ジビエの匂いについて

よく、ジビエが臭いのは血抜きが下手だからだとか言いますよね。

あれ、深く考えずに受け取ってしまうと、血が匂いの原因だと単純に思ってしまう人も多いんじゃないかと思います。でも、そんな単純な話じゃないんですね。

フランスでは鴨をエトフェと言って、血を抜かずに絞める方法があります。血を抜かない事で旨味や風味を高めるんですね。また、フランスに限らず他の国でも血をソースにしたり、料理につかったり。台湾にいた頃、当時の彼女に、モチ米を豚の血で固めたものを「はい、デザート」といって食べさせられましたが、全然言われないと分からない、いい香りがしました。日本人の大好きな鮪なんかも血が命であって、あれこそが本鮪の赤身の美味しさの源なんです。ということで、血自体は不快な臭いどころか無臭に近く、素材の風味の源泉になってるんですね。

では、ジビエの匂いとは何か?考えてみましょう。

まず、1つ目は鴨や羊や熊といったそれぞれの種の固有の香り。
料理人としてこれは、大事にしたい。消したくない。この香りを高めてこそ素材を活かした料理であって、その香りがないならブロイラーでも三元豚でも何でもいいやんってなりますよね。鶏でも豚でも野生種の匂いを抑える方向でどんどんどんどん品種改良されてきました。種固有の匂いって嫌がる人も多いですから、その方がより万人に受けるんです。

逆に、ジビエは当然のこと、イベリコ豚とか地鶏とか、野生種に近い種が有難がられるのは、種固有の香りが大好きな人がだんだん増えてきているのかも知れませんね。

そうそう、カレーでも、ラムとかマトンの匂いが抑えられてて美味しいってコメントを見かける事がありますが、それ、もしかすると素材が活かされてないだけなのかも知れませんよ。鶏の出汁に拘ってるラーメン屋さんで「このスープ、鶏の匂いがまったくしなくて旨い!」なんて言うようなものかも?

話は大分それましたが、その種固有の香りは大事にしたい所ですね。

2つ目。その個体の餌や生活環境。当たり前ですが、餌によって風味も変わってきます。養殖の魚と天然の魚は香りが違いますし、汚い川で餌を食べてる鴨なんかはどぶ臭いです。そして、ジビエは野生なので当然ですが、不衛生な環境かも知れませんし、何食べてるか分かりません。糞尿にまみれて生活してる個体もいるかも知れませんし、清潔な環境の個体もいるかも知れません。この辺はコントロールが効かないので、仕留めた後、適切な洗浄を行うなども大事なんだと思います。

3つ目は調理で作られる匂い。レバニラ炒めってレバー独特の香りが嫌いな人もいますよね。焼き鳥屋さんでレバーを焼いてもらっても、レバー独特の香りはします。ところが、同じ焼き鳥屋さんで、レバーを刺身で食べると、全然レバー臭さはありません。実はあのレバー臭さって、アラキドン酸という脂肪酸が加熱によって血液などに含まれる鉄分と反応し、酸化することで発生する匂いなんですね。なので、リスキーではありますが、低温調理されたレバーは全然臭くありません。ジビエなんかも、ガンガンに加熱すればするほど独特のレバー臭が発生します。まあ、これもジビエが臭いと言われる要因になるかと思います。

4つ目は腐敗臭。もしかするとこれがジビエの血抜きで匂い云々と言われる原因かと思いますが、要は鮮度です。血は栄養豊富なので腐りやすいんですね。それに、ジビエは不衛生な可能性も高いので、より傷みやすい。で、血を抜くことで傷む速度を緩くしてるんです。なので、いくら上手に血抜きしても、その後の保存状態とか処理面でいい加減だと、やっぱり腐敗臭で臭くなるんだと思います。迅速に清潔に処理され、チルドで熟成保存されてたりすると、ジビエをエトフェして血を抜かなかったとしても、不快な臭みはないんじゃないでしょうか。

結局のところ、ワインと同じで、信頼できる生産者さんがいて、信頼できる流通経路があって、信頼できる調理が施されれば、ジビエってめちゃくちゃ美味しいですよ!


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