2017年8月21日月曜日

エンジニアのカレー学 その1 香りの正体

カレーづくりにおいて、あなたは何を一番重視してますか?

コクや旨味という人もいるでしょうし、まろやかさとか辛さという人もいるでしょう。
わたしの場合はスパイスが如何に鮮烈に香るか?という点を最も重要なファクターとして考えています。

ドカベンで神奈川を制する者が全国を制するなんてありましたが、カレーの世界では香り制する者がカレーを制すといってもいいぐらいです。

スパイスの香りって難しいんですよね。温度や時間の経過でどんどん揮発していくので、いざ食べる段になると、アレ?香りが弱い?ということも。体調によっても感じ方が変化するし、香りを嗅ぎすぎると、いざ食べる時には鼻が麻痺して臭いしなくなるし・・・

そもそも、香りってなんでしょう?

まず、学術的に言えば香りとは「芳香化合物」とか「香気成分」と言われていて、その大抵が水素や炭素、酸素といった原子で構成されているのです。

この香気成分が料理から揮発して空気中を漂い、鼻の嗅覚受容体にたどり着いて匂いを感じるという訳です。

では、カレーの主要なスパイスのひとつであるクミンを例に香気成分をもっと具体的に見てみましょう。クミンをクミンたらしめている香気成分はクミンアルデヒドといい、化学式はC10H12O。クミンに似ている事で有名なワキガの臭いのスパイシー臭成分がC7H14O3。あれ?違いますね。まあ、クミンにも香気成分は100種以上ようですし、ワキガの匂いも同様でしょうから、複数の香気成分が混合された結果、似たような香りに感じるのかも知れませんね。

話はそれましたが、クローブならオイゲノール、カルダモンならテルピネオールやシネオールなどがカレーにとって、特に重要な香気成分となっています。そうして、これらの香気成分がひとまとまりになってカレー独特の香りと感じる訳ですね。

ところで日本では昔から、各種スパイスを混ぜ合わせてしばらく寝かせることで、バラバラだったスパイスの香りが、まとまってひとつのカレーという香りになるという考え方が主流でした。ところが、昨今ムーブメントを起こしている大阪スパイスカレーでは、あえてスパイス個々の香りを感じさせるという逆の考え方があって、それぞれが主張しあう賑やかな感じが大阪らしいなと思います。

またまた余談でしたね。
さて、この香気成分を純粋に抽出したものが、アロマテラピーなどで使われるエッセンシャルオイルとなります。エッセンシャルオイルはご存知のように揮発性で基本的に無色で油上の液体です。すぐに揮発するので、ふたを閉めて冷暗所の保管しますよね。実は引火性もあって危険物扱いされるものもあるんです。

オイルと名がつくので、油と誤解する人も多いようですが、油じゃないんですね。揮発性の高い液状の物質とでもいった感じでしょうか。でも、油じゃないと言っても、香気成分は油によーく溶けるんです。脂溶性が高いんですね。じゃあ水に溶けないのか?と言われると、厳密には溶けないのではなく、溶けにくいという話なんですね。なお、油によく溶けるのは香りと辛味。ペペロンチーノオイルなんてまさにその代表で、にんにくの香りと唐辛子の辛味が油に溶け込んでますよね。ここで、よくある誤解がひとつ。このアヒージョは旨味が油に溶け込んで美味しい!ってあるじゃないですか?

実は、旨味は油に溶けません。旨味が溶けるのは水です。専門的に言えば、水は+-の電気的な偏りを持っています。つまり磁石のように極性があるんですね。で、塩や砂糖、グルタミン酸やイノシン酸といった旨味成分は同じように極性があるから、磁石のように水とは結び付くんです。でも、油には極性がない。極性がないものは極性がないもの同士で馴染むんです。なので、例外もありますが基本的に、塩や砂糖、旨味は水に溶け、香りや辛味は油に溶けるという事になります。ペペロンチーノの場合、香りと辛味が溶けたオイルと塩気や旨味が溶けた水分がまざりあうことで、美味しいソースになるという訳です。

おっと、また余談でしたね。
なんとなく香りの正体が見えてきましたか?


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